大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1079号・昭51年(ネ)1208号 判決

(一) 本件踏切は、東側の甲道路又は乙道路から通過するにしても、西側の丙道路から通過するにしても、前方はもとより、左右の見通しが極めて良好であること。また、本件踏切における一日当りの総交通換算量は三、五七六、朝の比較的交通頻繁な時間帯での一時間当りの交通量も、最も少ないときで、歩行者〇、自転車五、バイク二、自動車一四、最も多いときで、歩行者一六、自転車一九、五、バイク二、自動車五一、五であり、列車の通過回数も、上り下り合わせて一日一七六本、平均通過間隔一〇、四分、朝の比較的交通頻繁な時間帯でも三分ないし七、八分であり、附近には小学校や幼稚園のごとき多数の児童の集散する施設もないこと。さらに、西側の道路における車の交通量も、朝の比較的交通頻繁な時間帯での一時間当りの数値は、乙道路において、最も少ないときで〇、最も多いときで一二、五であり、丙道路において、最も少ないときで三四一(一分間平均五、七)、最も多いときで六八二、五(一分間平均一一、四)であること。そして、本件踏切には閃光式警報機が設置されていて、これが電車通過の際、上り下りとも数十秒前から作動を始めること。これらの事情からみて、前叙のごとき交通規制や交差点又は踏切手前での一時停止等の規則が一般に遵守されることを否定すべき特段の事情の認められない本件においては、本件踏切は、人にとってはもとより、車両にとっても、「交通頻繁な踏切」とか「危険な踏切」とはいえないものと解するのが相当である。

(二) もっとも、前叙のごとく、(1)車両が東側の甲道路又は乙道路から本件踏切を通過する場合、本件踏切の手前で止まると、車両は、乙道路を大部分横切る格好で停車することとなる。しかし、この場合、乙道路は、ほぼ一直線で見通しがよく、しかも、該道路が甲道路と交差する手前に一時停止の道路標識が設置されているので、乙道路を走行する車の接近してくることがあるとしても、衝突の危険はもとより、交通を妨害する恐れもない。(2)また、踏切を渡り終えた丙道路との交差点において、左折又は右折の体勢に移った場合、(イ)四輪自動車のときはもとより、バイクのときでも、前輪が丙道路の有効幅員に喰い込むこととなる。(ロ)そればかりでなく、丙道路における車の交通量が可成り多いので、電車の通過間隙をぬって本件踏切を通過しても、そのまま丙道路の車の流れに乗ることが容易でなく、右のごとき左折又は右折の姿勢のままで待機しなければならない事態の生ずることもあり得る。しかし、(イ)仮りに、現在丙道路が軌道敷と接する部分にL字型側溝が整備されていて、本件事故当時においては、丙道路の有効幅員が現在よりも多少狭まかったとして、その点を考慮するとしても、右のように車両の前輪が丙道路の有効幅員に喰い込む程度は、歩道と車道の区別のない該道路においては、なお、歩行者通行のための路側帯(同法一〇条一項参照)内にとどまるものである。それ故、たとえ、右のように左折又は右折の姿勢のままで待機しているうちに電車の通過することがあるとしても、軌道敷の残余幅員とこれに並接する路側帯との範囲内において車体の操作を適切に行なえば、通過電車の速度が五〇キロメートル毎時であるとはいえ、車両が電車に接触する恐れのないのはもとより、丙道路の車の交通を妨害するがごときことも、優に避けられるものというべきである。このことは、遮断機の設置により軌道敷の残余幅員が本件事故当時よりも少なくなっている現在においても、衝突事故の発生していないことに徴しても明らかである。なお、右の場合、軌道の中心線附近から丙道路の軌道寄り路側帯にかけてみられる下り勾配は、それが前叙のごとき程度のものである以上、右車体の操作にさほどの影響を与えるものではない。(ロ)また、そもそも、待機している時間にしても、丙道路における自動車の最高時速は四〇キロメートルであり、いずれも押釦式であるとはいえ、本件踏切の南約七〇〇メートルの地点と北約五〇〇メートルの地点に、交通信号機が設置されていて、或る程度車の交通が規制されて、流れに間隙が生ずるのはもとより、本件踏切通過に当っては、予め該交差点附近における車の流れ具合いを確認したうえで踏切に乗り入れるのが普通であるから、車両を車の流れに乗せて右折又は右折を完了するのに、それほど多くの時間を要するものとは思われない(因みに、原審検証の結果に徴しても、被害者静夫が乗っていたのと同等のバイクを使用した場合、東側の停止線から発進して丙道路で右折を完了するまでの時間は、六秒であったことが認められる)。

(三) なお、運輸省の前掲通達は、同省が地方鉄道業者等に対する監督官庁として、行政監督上の立場から、業者の守るべき必要最少限度の基準を定めたものにすぎず、もとより、地方鉄道業者等の民事責任の基準を定めた法規範ではないから、右基準によって踏切における保安施設設置の瑕疵の有無を決定することは許されないが、試みに、右基準に照らしてみると、本件踏切は、運輸省の通達の上では、警報機の設置を要しない第四種踏切であること、また、静岡県の前掲踏切事故防止総合対策計画も、同県の交通安全対策協議会なる協賛団体が各交通関係機関に対して実施の勧告をした単なる計画にすぎないものではあるが、そこでも、紆途曲折はあったものの、結局、本件踏切は、本件事故発生後の昭和四八年三月末日までに実施すれば足りる交通規制Cの踏切と指定され、第一審被告会社が、右勧告の趣旨に副い、同末日までに本件踏切に遮断機を設置するに及んだこと、

以上を要するに、右(一)ないし(三)項において説示した理由を総合考較して判断すれば、本件事故当時、第一審被告会社は、本件踏切に閃光式警報機を設置していたことにより、踏切の保安施設につき地方鉄道業者に対して客観的に期待されるべき程度の法的義務は尽していたのであって、遮断機の設置を欠いていたことをもって、本件踏切の設置の瑕疵と論難することは、許されないものというべきである。

(渡部 柳沢 浅香)

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